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2010年8月 7日 (土)

児童虐待の記事を時間をかけて読んだ(日本の話です)

 遠くからインターネット越しにニュースを見ていても、相次ぐ児童虐待の記事は心痛むわけですが、その分析となると「?」というのも多い。子育て未経験かつ児童虐待の専門家でもない自分が丁寧に記事を読みかえしてみよう、ということで、8月4日付の読売新聞の記事を取り上げます。

(2010年8月4日03時04分  読売新聞)

未成熟な親、相次ぐ虐待…10~20歳代が半数
この記事は「事件報道」ではなく、といって「社説や解説」でもなく、「取材に基づいた分析」になるのでしょうか。「未成熟」という断定、それを裏付ける「10~20歳代」という数字、タイトルがとても扇情的ですね。読者が深刻な顔をして目をとめればそれで「勝ち」ということです。

 未成熟な若い親による虐待事件が止まらない。
この記者、「未成熟」をどうしても強調したいようです。

 (略)。今年相次いだ事件でも20歳代前半の親による犯行が目立つ。若い親に集中する虐待を止める手立てはあるのか。
「20歳代前半の親による犯行が目立つ」のは、昨今マスメディアがそうしたケースを取り上げているからです。昔からなかったわけではないでしょう。自分たちが取り上げれば「目立つ」し、取り上げなければ「目立たない」か「あたかも存在しない」かもしれないわけです。
ましてや、「若い親に集中する」というのはどこに証拠があるのか?

(中略)

 厚生労働省が08年4月~09年3月に把握した子供67人の虐待死を調査したところ、死亡時の実父と実母(計97人)の年齢層は「20~24歳」が21人と最も多く、「25~29歳」が20人、「19歳以下」が6人で、10~20歳代がほぼ半数を占めた。
合計すると、29歳以下が47人。30歳以上が50人。ほぼ拮抗していますね。本当に「若い親に集中」しているのでしょうか? 30代以上の親で外見が「成熟」してそうに見える人の虐待の方が、見えにくい分深刻な気もしますが。

 府警が2幼児遺棄事件以外に今年摘発した10件の虐待事件で逮捕した12人のうち11人が10~20歳代。全国で発覚した事件でも容疑者の多くが20歳代だった。
なるほど。府警の情報をソースにして記事を書きたかったのですね。しかし、警察は「刑事事件」となったものしか扱わないということも注意しておいた方がいいですよね。なぜ半分を占めると推定される30代以上の親による虐待が刑事事件にならないのでしょうか?

 「育児に疲れ、かわいいと思えなくなった」「泣きやまずイライラした」。容疑者の多くは、捜査当局の調べに、身勝手な動機を並べ立てる。
「育児に疲れ」という背景が「身勝手」かどうかはさておき、タイトルと重ね合わせると「虐待する若い親は未成熟かつ身勝手」と断じたいようですね。果たして「身勝手」は警察の意見なのか、記者の感想なのか。はたまた、「身勝手じゃない動機」ってあるのか。ともあれ、記事のメッセージが少しずつ見えてきました。

 こうした若い親について、NPO法人「児童虐待防止協会」の有馬克子理事は「少子化の影響で、子育てを見る機会が少ない。思春期以前から、出産や育児についての教育を充実させなければ、虐待は減らない」と指摘する。また、花園大の津崎哲郎教授(児童福祉論)は「誰にも頼れず孤立すると虐待の危険性が増す。行政は自ら情報収集して異変をつかむ体制づくりを進める必要がある」と話す。
支援体制の話を最後に持ち出すことで、全体を通して読むと「若い親は未成熟だから支援が必要」という、一見もっともらしい結論へと導びかれたような気がします。「こうした若い親」という括り方に、この記者のメッセージが見え隠れします。

-----------(引用終わり)

ところが、どちらの有識者も「親が未成熟だったから虐待した」とは言っていない。むしろ「放っておくと誰でも虐待しうる環境がある」ということを言っているとしか読めない。

ここに、虐待を巡る報道を読んだときの居心地の悪さがあるように思えるのです。この記者は警察発表をベースに書いていますが、おそらく虐待のあった背景を丁寧に取材していないでしょう。

もちろん、理由は何であれ、子どもを虐待しているのですから罪は罪として償うべきと思います。社会環境を理由に減刑するのは納得できません。しかし、社会環境をどうすべきか、という話は別にきちんとしていく必要があります。

ではどうすれば? とかく、児童相談所であったり、自治体であったり、時の政権であったり、批判する標的があれば楽なので、そちらにワッと向かう傾向があります。ここでは、記事で紹介されている2つの意見が、違う位相を取り上げていることに注意したいです。有馬さんは子ども時代の教育、つまり準備段階の重要性を説きます。津崎さんは子育てへの支援、つまり実施段階の重要性を説きます。

おそらく、それでも何か起きてしまったときのフォローとあわせて、合計3つの段階が必要なのでしょう。これを一つのプロジェクトと考えると、計画・立案→実行→評価とフォローアップというプロジェクトサイクルマネジメントにそっくりかも知れません。今の日本では、すべて別々の行政機構が実施していますが、人の一生と子育てのサイクルという切り口で考えると一元的に見ていった方がいいのかもしれない。

毎日新聞で勝間和代さんが児童虐待防止に予算の増額をというテーマで読者の意見を募っていました。予算の増額も大切なのでしょうが、「何に」優先的に予算を付けるのか、そして短期・中期・長期的にどうやって虐待をなくしていけるのかという、省庁の垣根を越えたコーディネートが十分でないことが、この問題の不幸かも知れません。


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