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2009年8月28日 (金)

ストロベリーティー

 仕事が外で終わり、Y駅まで10分ほど歩いた。Y駅の高架下に向かおうとした矢先、一軒の喫茶店が開いているのを見つけた。

 いつも通る度にシャッターが降りていて、もうやっていないものだと思っていた。いったん前を通り過ぎてはみたが、懐かしさには勝てず、躊躇する我が心を振り切り中に入った。

 もともと、ケーキ屋に引っ付いていた喫茶店だった。夫婦で経営しており、奥ではケーキ職人さんが働いていた。しかし、今日は、入り口を入ったところにあるショーケースにはケーキの代わりにたばこのカートンが並んでいる。扉にはたばこを売っていることを宣伝する文字が。今時珍しく全席にしっかりと灰皿が並び、大きな丸テーブルの上には外国たばこの試供品まで置いてある。

 奥からは人の気配は伝わってこない。年老いた奥さんひとりとバイトの女の子が店内にいる。すでにケーキ屋の看板は下ろしているようだ。店の造作はあの頃と変わらず、幼子がつまずいたという段差に「足下注意」のテープを貼ってあるのもそのまま。調度品のひとつひとつが記憶を呼び覚まさせる。

 窓際の席に座った。あの時と同じ席。窓の外に目をやると工事中で囲いのされた高架下と、窓際に並べられた味気ない鉢植え。

 女の子が注文を取りに来る。机の上に置かれたメニューに形だけ目をやり、形だけ考えるふりをする。ストロベリーティーがメニューにあるのを確認して、それを告げる。カウンターの向こうにいる年老いた奥さんがこちらを怪訝そうに見たような気がした。まさか覚えていることはあるまい。

 店内にはあの頃と同じくショパンがかかる。向かいの大きなテーブルでは初老の主婦たちが賑やかにコーヒータイムを楽しんでいたが、やがて「井戸端会議」は終わりを告げ、三々五々散っていった。あとは、若いサラリーマンがひとり、携帯を暇そうにいじっている。誰ひとりたばこを吸っていない。所在なげにしているのも何なので、ノートと手帳を広げて仕事のリストを作り直してみる。ずいぶん昔に買った大学生協のノートの黄ばみが急に気になる。そういえば、奥から出てきたノートをそのまま使っているんだっけか。

 そうこうしているうちに女の子が再びやってきて、ストロベリーティーを持ってきた。ティーカップに1杯と、ティーサーバーに2杯分ばかり。机の上のものを少し脇にどけて、軽く目を閉じる。

 この店に初めてやってきたのは大学1年の冬。クリスマスシーズンだった。兄からお下がりでもらったダッフルコートを着て、やはりこの席に座り、頼んだこともないストロベリーティーをおどおどしながら注文した。そしてやはり慣れない仕草でショーケースまで歩き、ケーキを選んだ。もし、老主人が自分のことを20年経っても覚えていたならば、この「挙動不審」な姿ゆえに違いない。

 約束の時間よりはるかに早く着いてしまって、所在なく紅茶を飲み、ケーキをつつきながら人を待つ自分は、周囲にはどう映っていただろうか。背伸びをして格好つけたうぶな子どもだっただろうか、それとも、クリスマスシーズンなのに約束をすっぽかされた哀れな学生だっただろうか。

 あの時よりももう少し大人びた風体で、ストロベリーティーを口にする。うっすらと苺の香りが鼻腔を抜けてゆく。刹那、胸に言い表しようのない感情の固まりがこみ上げてきた。あわてて飲み下し、気を取り直す。

 ノートを再び机の中央に戻し、書き込みを続ける。少し落ち着いてきた。泣きそう、とか、泣きたい、とかいう類のものではなかったが、それでも放っておいたらとめどなく涙があふれたかもしれない。

 いくぶんもしないうちに、胸ポケットに突っ込んだ携帯電話のバイブレーションが鳴る。仕事関係の友人からの電話。店内が大声で会話する雰囲気にないので、畢竟、相手の話に耳を傾ける。今日はそれが互いにベストだったようだ。相手の声が次第に落ち着いてくる。相手のトーンに合わせるように自分も現実世界にゆるゆると戻っていく。

 電話が終わり、ストロベリーティーを飲むと、耳に音楽が再び入ってきた。すでにショパンではなくなっていた。

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2009年8月25日 (火)

すわ、地震???

最近、

『「朝4時起き」で、すべてがうまく回りだす!』マガジンハウス社

なる本をトイレで読んでいる。おそらく電車とかで根を詰めて読めば一瞬で読めるのだが、何となくトイレ本扱い。

だからといって馬鹿にしているわけではなくて、ちゃんと起きる時間を1.5時間早めてみた(4時起きはまだまだ先の話)。すると、確かにはかどるんだよね、仕事が。こういうハウツー本(それも『生産性を上げて勝ち組へ!みたいなノリの』)に順応するのって、無意識に抵抗があるのだが、早起きがいいという事実には勝てない。

それはさておき、早起きを実践し始めたせいで朝からNHKFMを聞く機会が増えた。今朝も3時に寝たのに6時に目がぱっちり開いてトイレに行ったりしていると、突然「緊急地震速報」の声が。

いよいよか…。

アフリカから来ている人たちはどうするんだろう? とか
翻訳バイトの締め切りは延びるんだろうか? とか
貧乏で大きな家具がないのがこういうときは助かる とか
家賃安くても、築29年でも、一応鉄筋だし とか
いろんなことを考えつつ、アナウンスに従って机の下に。

しかし、頭がどうしても机の下に入らない(意味なし)。

……4分経ったが地震はない。
一応、千葉県東方沖でマグニチュード4.いくつかの地震はあったとアナウンスされたが、結局どこでも揺れは観測されなかったそうな。
気象庁で原因を調査中とか。

何だったんだろう??

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2009年8月16日 (日)

ハウツー本を読んでみる

 スルメさんを見習って、かどうかは分からないが、ハウツー本をブックオフで買った。

吉原真里(2004)『アメリカの大学院で成功する方法』中公新書1732

 別にアメリカの大学院に行きたいわけではないのだが(年も食ってしまっていて、奨学金にも引っかかりにくいし)、副題の「留学準備から就職まで」に惹かれた。いろんな留学本が世の中に出ているが、学部を対象としている本が圧倒的に多いせいか、どれも今ひとつ全体像がよく分からなかった。それに比べて、本書は留学前の心構えや選び方、アメリカの大学院システムや中での生き残り方に至るまで分かりやすく段階をおって説明されている。

 読んでいくと、自分の修士時代の指導教官がアメリカの大学院を相当意識して指導していたのが今さらながら分かる。とはいえ、本書にあるように「1日1冊専門書」とまでは到底行かなかったが。

 さて、何からまねてみるか。というところで今日やってみたのが家事。書中コラム「大学院生のための精神衛生」には「論文を書いていると…なかなか目に見えた結果が出ない。…自分がなにかをしたことで、はっきりとその結果が生まれる、という気持ちになれることが大事」とある。なるほど。

 というわけでしばし無心に畳をぞうきんがけしてみたりする。しかし、ふと気づくと別に今、自分は論文を書いているわけでもない。目の前の仕事から逃げるただの現実逃避だったのか。締め切りが近い……。

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